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あえて和訳してみる。
《We Go Further Away
俺もまた “その先”を探し続ける
去りゆく背を見つめて 誓うよ
Let Me Set You Free
それでいい これからは自分の為に
歩め Living for Yourself》
まず、英詞にする効果として考えられること…
当然ながら、日本語よりも意味が伝わりにくくなる。同じ内容を歌っても日本語より響きが和らぐ。あるいは、言いにくいことも少し言いやすくなるかもしれない。
キャラクターの心理として、聴く人に伝わりにくくなる。私もしばらく言葉の意味を意識していなかった(なぜかある日突然ふと、《Let Me Set You Free》ってスゴいこと言ってるな…と気を取られて興味を持った)。
《We Go Further Away》
直訳「俺たちはさらに遠くへ行く」
further awayには、「離れていく」ニュアンスもある。「俺たちは、さらに遠くへ、離れていく」。
曲の冒頭と1番・2番のサビで繰り返された《You Go Further Away》の変奏。You go further awayは、自分はその場に残っていて、相手だけが離れていくイメージ。《去りゆく背を見つめて》と響き合う。
go further awayは物理的な距離だけでなく、心理的な距離に使われることもある。疎遠になる、距離を置く、気持ちが離れる…
《去りゆく》相手を見送る——You go further away
《俺もまた “その先”を探し続ける》——ここが I go further awayなら、「君は俺から遠ざかり、俺も君から遠ざかる」ことになるけど、実際には I ではなく《We》が選ばれている。
We go further awayは二通りの解釈ができる。「お互いから遠ざかって離れる(We go further away from each otherの省略)」とも、「ここから離れて一緒に遠くへ行く」とも。この曲の状況的には前者の意味が正しそうだけど、文の構造的には後者として読むほうが自然でもあり、優しい曖昧さだと感じる。
《Let Me Set You Free》
直訳「俺に君を自由にさせてくれ」
直前で《誓うよ》と歌われている。「誓い」であればI willがもっとも自然に意味に合うのに、許可を請うLet meが使われている。
letの核にあるのは「妨げない」「そのままにさせる」こと。行為を阻まない、邪魔しない、自由にさせる、というニュアンス。だから「Let me」は、「俺がそうすることを妨げないで(自由にさせて)くれ」。
この原義に沿って読むなら、《Let Me Set You Free》は「俺が君を自由にすることを、妨げないでくれ」になる。
相手を自由にしようとするのと同時に、自分も自由にさせてくれと言っている。「君を自由にすることを、俺に自由にさせてくれ」。
なぜ「誓い」の意味にも合い文形としてもシンプルなI will set you free(俺は君を自由にする)ではなく、Let meを——「妨げないでくれ」の形を——使うのか。
素朴に考えるなら、何かに妨げられているから「妨げないでくれ」と言う必要がある。「俺は君を自由にしたい、でも何かがそれを妨げている、だからその妨げを取り除いてくれ」。
意思表示のI will set you freeは一人きりでも成立するけど、命令文のLet me set you freeはlet(許可)という行為を委ねる相手がいないと成立しない。自由に「させてくれ」と、誰に対して請うているのか…
自由に“させてくれ”の中に、色々な響きがある。許可を求める、懇願する、赦しを乞う……英語の「Let me」が持つ、あの宙吊りの感じは訳せない。
《歩め Living for Yourself》
直訳「君自身のために生きろ」…としそうになるけど、逐語的には「君自身のために生きていること」
「歩め」は命令形なのに、命令形でLive for yourselfとは言っていない。Livingは命令というより、状態の描写に近い。「君自身のために生きている状態であれ」。あるいは「君自身の人生を歩め」。
「歩め」という日本語の命令形の後に、「Living」という柔らかい形が続く。命じているようで、命じきっていない。「生きろ」より、「生きていて」に近いニュアンス。
“生きている”は、もう一か所、《頬に覚えた熱い痛み 生きている証》にも出てくる。
「俺たちはさらに遠くへ 離れていく
俺もまた “その先”を探し続ける
去りゆく背を見つめて 誓うよ
俺に君を自由にさせてくれ
それでいい これからは自分の為に
歩め 君自身の為に生きていて」
冷静に考えると、もしLive for yourselfだったら意味が重すぎるな。《友》の立場から命じることではない、普通は。
前置詞のfor以外はすべて語頭が大文字になっているのも気になる。「文章」というよりメッセージ、詩、祈り、みたいな。
タイトルがそうであるように、英語になっている部分がこの曲のメッセージの核心だと感じる。逆にいうと、核心ばかりが伝わりにくい形になっている。自分の気持ちの核心を伝えたいなら、日本語で直接的に言葉にしたほうが確実なのに。
伝えたいけど伝えたくない、伝えたくないけど伝えなきゃいけない、という《葛藤》を形式に映して表しているのだとしたら巧みだと思う。
Let me〜って、文形は「命令」/意味は「お願い」で、そもそも二律背反の響きがある。その意味でも絶妙。
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2曲の歌詞を突き合わせて読むと、言葉や表現のレベルでは綺麗に呼応して響き合っているのに、そこから見えてくる心情は全然違っているのが面白いです。決定的な理由は自分でもよくわからないまま、やたら惹かれ続けている。